多少のミスはありつつも課題曲を何回か繰り返し練習し、私は「ふう」とひと息つく。

窓の外を見ると、風がサヤサヤと木々の葉を揺らしており、私は体感でも目でも涼しさを感じて、季節が秋に移り変わろうとしているのを、しみじみと実感した。

「あのさ」

コンクールも少しずつ近付いているということで、相良くんに私の音はまだ表面的なのかどうかアドバイスをもらおうと思って、振り返る。
　
すると、相良くんは寝息を立てて眠っていた。
手がだらんと床につかんばかりに伸ばされ、その指からスマホが落ちている。
いつもより音が小さかったから、眠れたのだろうか。
　
私はスマホを拾おうとピアノ椅子から立ち上がった。
その時、外から拍手が聞こえたことで、私は何げなく窓際に寄ってみる。