突然褒められたものだから、私は調子が狂ってしまいそうになって、
「そりゃあ、外見や言葉遣いだけで、その人の本質は判断できないもの。ちゃんと話してみたら、本当にいやな人なんてほとんどいないし」
と早口になる。

相良くんは、「ハハッ。やっぱ真面目だ」と笑った。
そして私は、やっぱりこの人は見かけどおり軽いな、と思った。

「ピアノ、弾いていい?」
「どうぞ」
 
寝転がったまま足を組み、スマホを操作しはじめる相良くん。
私はそんな彼を見て、ピアノに向き直り、小さく深呼吸をする。
 
ピアノの練習を始めると、いつもの穏やかな気持ちが戻ってきた。
今日は屋根を閉じているからいつもより音自体は小さいものの、狭いピアノ教室で弾くのとは違い、音が伸び伸びと広がっていくのを感じる。
 
この旧音楽室で弾くピアノが好きだなぁ、私。

そういえば、相良くんが調律のついでに、ペダルとか鍵盤の軋みなんかも調整してくれたんだった。
それもあってのことかもしれない。