食べ終えた私は涼子とともに席を立ち、桐谷先輩のうしろを通って出入り口へと向かおうとする。……と、足もとに、茶色っぽいものが落ちているのに気付き、足を止めた。
あ……。枝だ。
細くて、いくつも枝わかれした、10センチちょっとの木の枝。
すぐに彼のものだとわかった私は、それを拾って、桐谷先輩の背後から、
「先輩。落とし物です」
と声をかける。
彼の横の男子生徒は少し驚いていたけれど、とくに表情を変えない桐谷先輩は、
「あぁ」
と、いつぞやと同じようにゆっくりと体半分で振り返って私を見た。
いつもと違う場所、人がたくさんいる中で言葉を交わしているということに、なんだか違和感と緊張を覚える。
「いいよ。ひとつくらいあげる」
聞いたことがあるようなセリフを返され、私は、
「いや、だから、いらないです」
ととっさに返す。
その瞬間、ハ、と笑われて、手のひらから取られる小枝。
「楽しんできてね、デート」
そして彼は、さらりとそう言った。