「桐谷、お前遅かったな。どこ行ってたの?」
「枝拾ってた」
「また? ホント絵のことばっかだな」

隣の席から、桐谷先輩たちの会話が聞こえてくる。意識がそちらに集中してしまっているからかもしれないけれど。

「動物園は? ほら、リニューアルオープンしたって言ってたし」

中野くんの声に、隣に持っていかれていた聴覚をこちらへ戻す。

「あー……。うん、いいと思うけど」
「よし、決まり! 今週末ね」

嬉しそうにそう言った中野くんは、手に持っていたパックジュースを飲みほし、「じゃーね!」と勢いよく去っていった。

「あいつ……、舞川さんがOKするかどうかもわかってないのに」

そばをすすった涼子が、中野くんの背中を見送りながら、私が思ったことと同じことをつぶやいた。

所せましと並んでいる、机と椅子の数々、それに座る人たち。ザワザワとおのおので話している会話、いくつもの音が不ぞろいにも集合している中、私の意識は、やっぱり隣の隣の隣に座っている桐谷先輩にあった。

彼は昨日ひどいことをされた絵のことで、落ちこんでいないかな。そんなときに告白しちゃった私のことを、内心呆れているんじゃないだろうか。

そんなことを考えながら、涼子の話も上の空でお弁当を食べた。