「えー……っと、ちょっと待って。知らないうちに、なんで話がそんなに進んでるわけ?」
そばをすすったあと、涼子が衝撃たっぷりの目を向ける。お弁当を忘れてきた彼女に付き合って学食でお弁当を食べながら、昨日の話をしているところだ。涼子には桐谷遥が男だったという話はしていたものの、好きになってしまったということは言っていなかった。
「つーか何様だ! このままがいいなんて女を、林に連れ出していいと思ってるの?」
箸を振りあげながら、なおも続ける涼子。私はまわりのテーブルの聞こえてしまうのがはずかしくて、「涼子、声大きい」と小声でとがめる。
「だから、いろいろあったの。いろいろあって、なんか伝えたいって思っちゃって自爆しただけだから」
そう言うと、細めた目でいぶかしげな顔をする涼子。
「美術部は続けるの?」
「続けるつもりだけど……」
だって、ちょっと絵も楽しくなってきたし、なにより桐谷先輩とその作品とのかかわりを断ちたくない。
そもそもはただ、桐谷遥っていう作者のファンだったんだ。だから、好きの種類をそっちにシフトして戻していければいいと思う。時間はかかるかもしれないけど。いや、絶対かかるけど。