「桐谷先輩」
「んー?」
「好きです」

初めて異性の前で口にした好意。視線は、斜め上にある顔には向けられず、斜め下の座席の脚の方へ落としたまま。

「うん。ごめんね」

彼の口調にはためらいが微塵も感じられなかった。でも、思いのほかやわらかい声で返ってきた。最初から、わかっていたはずの答えだった。

「好きなままでも……いいですか?」
「ダメ」

彼の口の中の飴が、右頬から左頬へ小さな音を立てて移動し、カリ……と音がした。

「こんな感じのままがいい。男対女になりたくない」
「私、女です」
「ハ。そうだね。覚えとく」

桐谷先輩は薄く笑った。私の告白の緊迫感を、たやすくほどく。

私にとって、初めての告白だった。もっと、悲しくて涙が出るものだと思っていたけれど、わかっていたからだろうか、涙の予兆は感じなかった。

「アメ、おかわり」
「……はい」

まるでなにもなかったかのように催促されて、最後のひとつだった飴を手渡す。彼の指先がほんの少し、私の手のひらに触れた。

涙は出ないけれど、この一瞬の温度に胸が高鳴るのが自分だけなのかと思うと、空しかった。