私は桐谷先輩の言っていることを、頭の中で何度も繰り返した。彼が特別に教えてくれることを、ひとつでも取りこぼしたくはないと思った。ちゃんと理解したいと思った。でも……。
「なんでそんな話……するんですか? 私に」
まっすぐ彼を見てそう聞くと、
「うー……ん、なんでだろ。今日のこと、水島さんが俺以上に悔しがってくれたから、かな?」
と答えが返ってくる。
「思いのほか嬉しかったのかも」
「……かも?」
「うん。かも」
そう言ってふわりと笑った桐谷先輩は、いつもより幼く見えた。
彼は、そんな大好きな絵があんな無残に引き裂かれて、どう思ったのだろうか。どんな気持ちで、美術準備室の廃棄キャンバスの上に重ねたのだろうか。
そう思ったらまた涙がにじみそうになり、私は空を見あげた。
薄くオレンジがかってきた淡い水色をバックに、鳥が数羽連なって飛んでいく。私の心のなかは今、勉強よりもお母さんよりも学校よりも部活よりも桐谷先輩の作品よりも、隣に座る彼本人の色でいっぱいになっていた。
「なんでそんな話……するんですか? 私に」
まっすぐ彼を見てそう聞くと、
「うー……ん、なんでだろ。今日のこと、水島さんが俺以上に悔しがってくれたから、かな?」
と答えが返ってくる。
「思いのほか嬉しかったのかも」
「……かも?」
「うん。かも」
そう言ってふわりと笑った桐谷先輩は、いつもより幼く見えた。
彼は、そんな大好きな絵があんな無残に引き裂かれて、どう思ったのだろうか。どんな気持ちで、美術準備室の廃棄キャンバスの上に重ねたのだろうか。
そう思ったらまた涙がにじみそうになり、私は空を見あげた。
薄くオレンジがかってきた淡い水色をバックに、鳥が数羽連なって飛んでいく。私の心のなかは今、勉強よりもお母さんよりも学校よりも部活よりも桐谷先輩の作品よりも、隣に座る彼本人の色でいっぱいになっていた。