「なんか思った。ここ来たら、水島さん、空と街描くだろうなって」

気付けば私も夢中で絵を描いていて、横から桐谷先輩に声をかけられたことで、ハッとした。あげた顔を再度自分の手もとに戻すと、可も不可もない空と街の縮図。

「10人いたら、8人は描くような構図だね」
「だって、描かなきゃ申し訳ないくらい素敵な景色だから」

性格出てるね、と言わんばかりの顔の桐谷先輩に、負けずに言い返す。仕方ないじゃないか。先輩と違って、私は凡人なんだから。

「ていうか、急に話しだすから驚いたじゃないですか」
「さっきからずっと見てたけど」
「ひと声かけてください」
「なんで?」
「はずかしいからですよ。桐谷先輩みたいに、絵、うまくないし」

そう言って、視線を落としてうつむき、表情を隠した。ずっと見てた、ってぜんぜん気付かなかった。絵を見ていたんだろうけど、そんなこと言われたら照れてしまって、どんな顔をしたらいいのかわからない。

「そう? 最初のころに比べたら、だいぶよくなってきてると思うけど。色が生きてる」
「それは……」

桐谷先輩と一緒に、りんごをめちゃくちゃな色で塗ってからだ。そう思ったけど、なんとなく気はずかしくて言えなかった。

「桐谷先輩はどんな絵描いたんですか?」
「こんなの」