「…………」

自由だな……あいかわらず。

心のなかでそうつぶやいた私は、仕方がないので、とりあえずその場で体育座り。そして、わけがわからないまま、そっと自分のバッグからノートを出し、それを下敷き代わりに一枚のスケッチブックを太ももの上に広げる。悩んだあげく、水色のクレヨンに手を伸ばした。

風が心地よく通り、草木を揺らしている。モンシロチョウが黄色のクレヨンにとまり、私が他の色を戻したことでまた飛んでいった。

のどかな時間だな、と手を止めて空を見ていると、横の人がガバッと起きあがり、急にスケッチブックに色を塗り始める。

「…………」

驚いて声が出そうになるのを、手で覆ってかろうじて抑えた。真剣、それでいて心底楽しそうな彼の横顔に、いつぞやと同じように息をのむ。たぶん、今、私が隣にいること忘れてるんだろうな、ってわかるくらい没頭している。

次々と塗られていくクレヨンは、まるで彼の指で踊っているみたいだ。使われていない色たちも、彼に取ってもらえるのを期待しているかのように見える。

あー……。人が夢中になっている姿って、なんでこんなにきれいで、なんでこんなにうらやましいんだろう。

そんなことを思いながら、私は自分の絵に目を戻し、空と街並みの色塗りを再開した。