「うわぁ……」

高校の裏手にある林は、通ったことはあるけれど、中まで入ったことはなかった。しばらく歩いて、少し草木が生い茂っているところを無理やり抜けると、景色が一変。薄暗かったのに急に明るさに溢れ、視界が一気に広がる。

「すごい、道路があんなに下に見える」

そこまで広くはない場所で、秘密基地にうってつけな感じだ。ここから見える空も、下に広がる街並みも、まるで独り占めしているような気分になる。
 
あのあと、美術部の先輩たちの好奇の目をくぐり抜けて、ここまでやってきた。事情が事情なので誰もなにも言わなかったけれど、赤くなってしまった目には気付かれたかもしれない。

塾は休んだ。
バスの時間に間に合わなかったんじゃなくて、初めて自分の意志で休んだ。

正直、さっきの出来事を思い出すと、悔しくて悲しくて、どうしても納得がいかない。すばらしい作品ができあがっていく過程を見ていたからこそ、楽しそうに描く桐谷先輩を見ていたからこそ、やりきれなくて、今でも涙がこぼれそうになる。

けれども、桐谷先輩に連れられてきたこの場所は、そんな憤りと悲しみをほんの少しだけ静めてくれている気がする。