「あーあ。ほら、やっぱり黒くなってる」
そのとき、離された腕。そこでようやく私は、今の今まで腕をつかまれたままだったということに気付いた。
「マニキュア落とすやつとか、家に持ってる?」
今度は色がついてしまった制服の袖を見るべく、その手首をつかまれる。
「え……、あ、……はい」
「ダメ元だけど、帰ったら一度それで落としてみて」
「……はい」
この前と同じアングル。至近距離。会話がとぎれると、その視線は、私の制服の袖から私の顔へと移された。
「ひどい顔」
「……っ!」
「でも、泣いてくれてありがと」
すかさずそう言った先輩は、ポンと私の頭に手を置いてすぐに離し、すくっと立ちあがった。
「…………」
なにも返せぬまま彼の顔を追うと、私を見おろすその顔は、優しい顔をしていた。
「先に向こうに戻るから、落ち着いてから出てきたら? あと、その絵はちゃんとそこに戻しといて。また汚れるといけないから」
「……は、い」
私がそう返事をするのを確認すると、美術室の方へ踵を返す桐谷先輩。2、3歩進んでから「あ」と言って振り返った。
「ねぇ、水島さん。今日このあと、付き合える?」
「どこにですか?」
「林」
「……林?」
しゃがんだ体勢のままの私の顎から、さっきの涙の残りがひとしずく落ちた。
そのとき、離された腕。そこでようやく私は、今の今まで腕をつかまれたままだったということに気付いた。
「マニキュア落とすやつとか、家に持ってる?」
今度は色がついてしまった制服の袖を見るべく、その手首をつかまれる。
「え……、あ、……はい」
「ダメ元だけど、帰ったら一度それで落としてみて」
「……はい」
この前と同じアングル。至近距離。会話がとぎれると、その視線は、私の制服の袖から私の顔へと移された。
「ひどい顔」
「……っ!」
「でも、泣いてくれてありがと」
すかさずそう言った先輩は、ポンと私の頭に手を置いてすぐに離し、すくっと立ちあがった。
「…………」
なにも返せぬまま彼の顔を追うと、私を見おろすその顔は、優しい顔をしていた。
「先に向こうに戻るから、落ち着いてから出てきたら? あと、その絵はちゃんとそこに戻しといて。また汚れるといけないから」
「……は、い」
私がそう返事をするのを確認すると、美術室の方へ踵を返す桐谷先輩。2、3歩進んでから「あ」と言って振り返った。
「ねぇ、水島さん。今日このあと、付き合える?」
「どこにですか?」
「林」
「……林?」
しゃがんだ体勢のままの私の顎から、さっきの涙の残りがひとしずく落ちた。