「…………っ」

気付けばしゃがみこみ、それに手を伸ばしていた。

「あんな……、あんなにきれいな絵だったのに」

キャンバスの黒に染まる視界に、涙でいくつもの亀裂が入る。両手でキャンバスを持って自分側に近付けると、桐谷先輩が私の腕を持ちあげるように引いた。

「ねぇ、制服、汚れるから」
「こんなになるんなら、昨日こっそり盗んで、部屋に飾っとけばよかった」

ポロポロと出てくる大粒の涙が、キャンバスにボタボタ落ちる。涙が出るのは久しぶりで、止め方を思い出せない。

「いいから、もう」
「うー……。悔しい」
「…………」
「悔しい悔しい悔しい」

そう言いながらうずくまる私に対し、桐谷先輩はもうなにも言わなくなった。しばらく、私の小さな嗚咽だけが美術準備室に響く。

もしかしたら、ほんのわずかな時間だったのかもしれない。でも、私にとってはけっこう長く感じられた沈黙。それを破ったのは、私の横に同じようにしゃがんだ桐谷先輩の制服がこすれる音だった。