数日後。
「舞川さんて可愛ーよなぁ、彼氏いんのかなー」
「いないらしいよ」
「マジ!?」
中野(なかの)くんがすごい勢いで、視線を手もとの携帯から私の方へ体ごと向ける。
中野くんというのは涼子のおさななじみだ。涼子同様中学から一緒で、涼子を介して話すようになった。放課後、たまたま教室を出るのが一緒になり、3人で喋りながら階段をおりる。
「やりー!」
「彼氏いないイコール付き合えるじゃないからね、ナカ」
「わかってるよ」
「…………」
涼子と中野くんの話を横で聞きながら、好きな人いるけどね、彼女、と伝えるかどうか迷ったけれど、結局言わなかった。
階段をおりると、「じゃーね」とおたがいに言って別れる。私は美術室へと足を進めた。
今日は火曜日。桐谷先輩が必ず来る日だ。
彼はいつも私より遅く来るってわかっているのに、早足で美術室へ向かっているのはなぜだろう。『じゃあ、また火曜日にね』と言ったその声と顔が、脳内でリピート再生されているのはなぜだろう。