「あー、ヤバイ。今日当たるわ、訳」
「はい、いいよ。ノート貸してあげる」
「わ。さすが沙希様」

まるで国王からの褒美をもらうようなポーズでノートを受け取るのは、友人の涼子(りょうこ)。中学が同じで、3年のときに同じクラスになって以来の仲の彼女は、サバサバしていてひょうきんで、誰からも愛されるキャラだ。

「ていうかさ、さっきの話の続きだけど、その抱きあってた3年の話、もっとちょうだいよ」
「だから、すぐに引き返したんだって。なんで聞きたいのよ?」
「だーって、うらやましいじゃん。あー、彼氏欲しー。男に抱きつきたーい」
「涼子、男友達とたわむれてるじゃん」
「そんなプロレスまがいなのじゃなくて、抱擁よ。愛の抱擁」

私のノートを写しながら、男女交際について熱く語りだす涼子。
昨日のあれは、愛の抱擁なんて感じじゃなかったと思うのだけど。

「彼氏かー。私にはできる気がしないな」

まるで他人事のように言うと、

「沙希はまず、その無表情を治すのが先」

と、頭に軽いチョップをくらう。直後に、「あ、無意識にダジャレになった」と吹き出す涼子。