「今日は来ないの? 美術室」

光を背に受けて、私に影を作りながら聞いてくる桐谷先輩。

「塾に……行くから」

今日は日直のせいで時間がないから、部活には寄らずに塾へ行く。バスの時間まで、もうすぐだ。

「ふーん。今度の火曜日は?」
「…………」

さっきといい、今の言い方といい……なんだろう、いちいち期待してしまいそうになる。そんなの無意味で無駄なのに。

「……行きますけど」
「そう」

目を伏せたまま微笑んだ彼は、「じゃあ、また火曜日にね」と言って、美術室の方へと歩いていった。桐谷先輩の背中を見送った私は、ゆっくりと校舎の方へ足を進める。中庭の緑たちは、夕方色の光をこぼしていた。

『ダメだよー、遥にハマっちゃ』

そんなの、知ってる。初めて会ったときから知っている。でも、彼が描く、光をまとった抽象画のように、彼自身の色に引きこまれずにはいられない。
たぶんもう……手遅れなんだ。