「よ、よかったんですか? 彼女、若干怒ってましたよ?」
立ち去り際に私にチラッと冷たい視線を送った彼女のうしろ姿を見送る。
「そう?」
飄々とした態度で、手に取った一枚の葉っぱをクルリと指で回す桐谷先輩。
「約束してたわけじゃないのに、なんで怒るんだろうね」
「そりゃあ……」
好きだからでしょ、と言いかけてやめた。“ワガママ”も“独占欲”も、彼が交際するのがわずらわしいと思っている要因どまん中だろうから。
話をそちらへ持っていきたくない。だって、私が目の前の彼に対して感じるものも同じで、昨日の“ダメ”発言も、根っこはそれだから。
「桐谷先輩にはわからないでしょうね」
「わからなくてもいいや、めんどくさそうだし」
「…………」
ゆるく笑って葉っぱに口を寄せるその仕草は、まるでキスみたいだ。この男、“知っている”のに“わからない”んだ。私の気持ちも、さっきの彼女の気持ちも見透かした上で、めんどくさいから、自分に経験がないから、だから理解する気も受け入れる気もない。踏みこまれると、ボーダーを引く。