「こっち……ですかね」
「やっぱり」

ハ、という短い笑い声とともに、真横で彼の顔がくしゃっとなった。

「わかってんね、水島さん」

彼の色素の薄いねこっ毛を、日の光がきらめかせて、風が揺する。細められた目は、奥二重が強調されて、女の私の目から見てもきれいだと思った。あがった口角が頬へ伸びて、なんだか子どもみたいに嬉しそうな顔。
それよりなにより……。

「ち」

心臓の機能が急に誤作動し始めたんじゃないかと思うくらい、私の胸は早鐘を打つ。

「ち?」
「……近くないですか? 顔」
「あぁ」

無邪気だった笑顔が、途端に意地悪な笑顔に変わる。

「この体勢、うしろから見たらさ、まるで」
「あーーー! 遥がキスしてる!」

背後からの女の生徒の声に、私はまるで耳元でシンバルを打たれたかのようにビクッと肩を浮かせる。驚きすぎて、尻もちをついた。

「こんなとこでしてると、丸見えだよ」

振り返ると、いつぞやのショートボブの3年のきれいな先輩。

「してないよ」
「またまたー」

立ちあがって彼女の方を向く桐谷先輩。こちらに来た彼女は、彼の胸のところをトンと押して笑った。

「あ」

そこでようやく、尻もちをついたままで固まっている私に目を落とす。

「美術部の人だ」
「……はい」
「ダメだよー、遥にハマっちゃ」