「舞川さんて、桐谷先輩のこと……」
「あ……。ハハ。バレバレだよね? 先輩がいるっていうのも、この高校の志望理由のひとつだったんだ。最初は本当にファンなだけだったんだけど」

一緒だ……、私と。桐谷先輩の顔を知らなかっただけで。

そう思いながら、どんどん心のなかが霞がかってきた。
はずかしそうに頭をかく舞川さんは、恋する美少女って感じでとても可愛い。それに、絵の実力もあるし。

「…………」

同じ部活の人に手を出す気はない、って桐谷先輩は言っていたけれど、舞川さんなら、もしかしたら彼の例外になれるのかもしれない。
重い心持ちで、油絵の画材入れの箱を開く。

「彼女、いるよね? たぶん」

舞川さんがつぶやくようにこぼす。

「いないって言ってたよ」

そう答えてから、なんだか応援しているみたいな言い方になっちゃったな、と思った。やっぱり今日も、透明なビンの色は上手に塗れなかった。