「同じクラスや部活の人に手を出す気はないし」
「え?」

ガタゴトとバスと同じリズムで揺れる私と桐谷先輩。窓なんて開いていないのに、冷たい風が吹き抜けた気がした。

「そ……そうなんですね」
「うん」

私は、自分の手先がだんだん冷たくなっていくのを感じた。なんだか、全部見透かされていて、釘を刺されているような気がする。これ以上、好きになるなって……。

「…………」

ドクン、とさっきとは打って変わって、熱くて苦いものがこみあげる。好きだということを自分で認めた途端に、一気に胸に痛みが広がった。

「ハ……ハハ。揉めたり別れたりすること前提で、ややこしくなりたくないってことですか?」

無理に笑って、なんでもないことのように聞くと、
「そう。ていうか、そもそも彼女作る気ないし」
と、飄々と答える桐谷先輩。

サイテー。彼女じゃない女の人とはあんなことしてるくせに。

桐谷先輩の言葉に乾いた笑いを返しながら、彼のラブシーンを思い返し、心のなかで思いきり罵る。

「なんだ。桐谷先輩、本当に人を好きになったことがないんだ」

気付けば、口から嫌味が出ていた。見おろしている桐谷先輩が、薄い笑顔のまま、「ん?」と一時停止する。