「俺が舞川さんと話すの、嫌だったの?」

一瞬、心臓が跳ねた。足もとに視線を落としたまま、目を見開く。ドク、ドクと急にけたたましい音が体の中から振動を伝える。
固まった私は、ゴク、と唾を飲み、自分を落ち着かせようとした。両腕をかけてうしろの席から見おろしている桐谷先輩。逃げたいけれど、逃げようがない。返事をしないのは、肯定と同じだ。

「フ……ファンだからです。桐谷先輩の絵の。だから、他の人に作品の話をすることに、嫉妬して……」

これ以上の沈黙は危険だと思った私は、大筋では嘘じゃない理由を伝える。

「ふーん」

頬杖をついた桐谷先輩が、薄く笑った。なんとなく居心地が悪くて、
「あっ、でも、舞川さんホントに可愛いし、いい子ですよね。よかったですね、彼女も桐谷先輩のファンらしいし」
と、無理やり話題をつなげる。

「そーだね」
「ア、ハハ……。ですよね。私も男だったら付き合いたいなー、なんて」

言ってて少しアホっぽいな、私、と思い、なんとなく惨めな気分になった。笑顔もちゃんと作れていない。自分でもわかる。

「まぁ、でも、俺は無理だな」

頬杖をついたままの桐谷先輩が、斜め上を見ながら、ぼんやりと言った。その意外な言葉に、
「え? なんで……ですか?」
と、とっさに聞き返す私。