「聞こえてんでしょ?」
「…………」
「おーい、水島さーん」

ちょっと大きめの声を出すもんだから、乗客が他にいないものの、慌てて、
「今、聞こえました!」
と振り向きざまに答える。

……や否や、
「”ダメ”ってなに?」
と、私の背もたれに両手を置き、飄々と言葉をかぶせて聞いてくる桐谷先輩。

「ぐ」
「”ぐ”ってなに? 今度は」

クックックッと笑われる。

なんて答えればいいんだろう。私にだけ特別に話してくれたはずの話を、他の人にも同じようにするのが嫌だったから。ふたりだけの秘密にしておきたかったから。

そんなワガママ、そんなやきもち……。それって、どこをどう解釈しても……。

「好きだよね、水島さんて」
「えっ!?」
「覗くのが」
「あっ! はいっ。いえっ、いいえっ」

桐谷先輩の発した単語に過剰反応してしまい、わけのわからない返答をしてしまうと、彼が、
「面白いね、水島さん」
と、またケラケラ笑った。

私はたぶん、この人の前で、今までで一番赤い顔をさらしている。体半分を横に向けた態勢でうしろを向いていた私は、はずかしくなってその顔をぐるんと自分の足もとへ向けた。自分の気持ちを悟られて、からかわれているような気がする。