「アメ、ちょーだい」
バスが揺れる中、背後からヌッと手が出てくる。
「……どうぞ」
「どーも」
のど飴を手のひらに乗せると、スッとその手は引っこんだ。
……気まずい。非常に気まずい。
うしろの席の人を意識しすぎて、背中がパリパリに固まって干からびている気がする。
あのあと、桐谷先輩の発言のおかげで、私の “ダメ”発言はうやむやになった。桐谷先輩のあとから美術準備室を出てきた舞川さんは、少しだけ私になにか言いたげだったけれど、部活が終わるまで何事もなく、他の人になにを言われることもなく、時間は過ぎた。
でも、それでも……。
「…………」
今日に限って、停留所を3つ残して乗客が私とうしろの席の桐谷先輩だけになったバスの車内は、緊張とバツの悪さに押しつぶされてしまいそうだ。吐く息ひとつで気持ちまで伝わってしまいそうで、ビクビクする。
「あのさー」
「…………」
うしろから声がする。でも、私は振り返らずに、聞こえないふりをした。外は薄暗く、いつもの景色。いつもと違うのは、おだやかじゃない自分の気持ちと、この状況。