「もういい? 俺、こっちに先生の絵の具借りに来ただけだから。絵はそのまま見ててもいいし」
「あっ、すみません、しつこくしちゃって」
「べつにいいけど」

話からすると、桐谷先輩のあとを追ってきた舞川さんが、桐谷先輩の過去の作品を偶然見つけて、感激しているといったところだろう。たぶん、私の大好きな……あの作品。

「しつこいついでに質問、いいですか?」
「……いいけど」

聞き耳だけじゃ飽き足らず、少しだけ中を覗きこむ私。”無題 2年 桐谷遥”をバックに、身長差も理想的な美男美女が向かいあって立っている。

……なにしてるんだろう、私……。覗いている自分が、とてつもなく惨めに思えてくる。

「なんで”無題”なんですか? タイトル」

——え?

舞川さんの質問に、私は思わず体がピクリと動いた。

やだ。

私が以前桐谷先輩に聞いたこととまったく同じなのに、なんだかものすごく嫌な気持ちになる。

「めんどくさいから」

首のうしろを押さえながら、気だるさ満載で私のときとまったく同じ返答をする桐谷先輩。

「じゃあ、これを描いたきっかけとか……」
「あー……」

「ダメっ!!」

「え?」