あれこれ考えながらも絵筆を動かしていると、10分なんてすぐ過ぎた。私はモヤモヤを吐き出すようにため息をつき、帰り支度を始める。
「…………」
……あれ?
顔をあげると、桐谷先輩の姿がないことに気付いた。
トイレかな……?
そう思ったけれど、ぐるりと見渡し、舞川さんの姿も見えないことに気付くと、心臓の音が急に大きくなったような錯覚に陥った。
……え?
気にしすぎだ、ということは頭の中でわかっている。べつにふたりでなにを話そうがなにをしようが、私には関係のないことだ、ということも。でも、なんでこんなに気になるのか、なにが私の鼓動を速めるのか、私はおもむろに席を立つ。
たぶん……あそこだ。入り口のドアを開け閉めする音は聞こえなかったし……。
とりあえず、なにげないふりをして、境のドアが開いたままでひと続きになっている美術準備室へと足を向ける。
「……です。そうです、この絵! 私美展に見にいきました! この、色のコントラストがとても……」
美術準備室の近くまで行くと、予想どおり、舞川さんの声が聞こえてくる。私は中までは入らずに足を止め、そっと聞き耳を立てる。