「はい、水島さん。なんでここ、こういうふうに訳すと思う?」
「……わかりません」
「前回やったよね? こういうとき、文法の法則があるって」
「…………」
前回は休んだからわからない私は、そのことを覚えていないらしい先生の前で無言を決めこむ。そうしていると、「はい、じゃあうしろの……」と、先生は痺れを切らして飛ばしてくれた。
「そう、正解!」
うしろの席の他校の男子が、さすがだと褒められているのを聞きながら、蛍光灯の下で私の頭が影を作るノートをながめる。文字たちは無表情にノートに横たわっているだけで、私の頭のなかには入ってこない。書かれた文字が全部粉薬になって、飲んだらすべて自分に吸収されればいいのに。
そんなバカなことを考えながら、書き足される板書をまたノートに取り始める。
『私、ずっと前から先輩のファンで!』
あの子、すごく可愛かったな。それに、絵も上手で、人なつっこくて……。
「…………」
ぜんぜん嫌なところなんてないはずなのに、なんで私はこんな気持ちになるんだろう。なんで、なにもかも……うまくいかないんだろう。