いたたまれず、
「先に帰ります。お疲れ様です」
と、みんなの背後から声をかけて入り口へと向かう。

「あ、水島ちゃん、バイバーイ」

まり先輩の声のうしろから聞こえる「お疲れでーす」という部員たちの声を受けて、再度軽く会釈をして一歩外へ出る。

……と。

「あ」
「あ」

ちょうど入れ違いに中に入ろうとしてきた生徒がひとり。正面のブレザーから視線をあげると、こちらを見おろす気だるそうな目。その目にかかる色素の薄い前髪。

「帰るんだ?」

桐谷先輩だった。

「はい。あれ? 今日、バイトは……」
「休み」
「来る時間、はやいですね」
「いつも遅れてくるわけじゃないよ」

なんとなく、よそよそしい声になってしまう。目もちゃんと合わせられない。この前ふたりで絵を描いたことと、女の人と帰っていったことが、なんとなく引っかかっている。

「じゃーね」
「あ、はい。さようなら」

いつもどおりなのに、そっけなさを感じながら挨拶を返すと、桐谷先輩は美術室の中に入っていった。