「舞川陽奈子(まいかわひなこ)です。よろしくお願いします」
パチパチパチ、と美術室に響く拍手が、私のときよりも大きい気がする。黒板の前で愛らしく微笑んで深く頭をさげるのは、おめめはパチクリ、まつげはバサバサ、色は白くてお肌ツヤツヤの新入部員の1年生。少し茶色っぽい長い髪の毛はゆるくカールしていて、まるでお人形さんだ。
なんでまた、こんな可愛い子が美術部に……。
正直言って、この部活に似合わないような気がする。まぁ、約一名、他にも似合わない人がいるけれど。
同じ1年の私と並んだら、10人中10人、絶対に彼女が可愛いと言いきるだろう。真っ黒で直毛の肩上の髪をひと筋取ってながめながら、私は卑屈っぽい気持ちになった。
「同じ1年だよね? えーっと……」
「水島です。よろしく」
「水島さん。下の名前は?」
「沙希」
「沙希ちゃん、よろしくね。あ、油絵描いてる。私も油絵描きたくて美術部入ったの」
「そうなんだ」
自己紹介のあとに声をかけてきてくれた彼女は、とびきりの笑顔で、女の私ですら頬を染めてしまいそうなほどだったにもかかわらず、私は会話を広げることができず、彼女は自分の席に戻った。
可愛くて、笑顔も素敵で、性格もよさそう。神様はなんて不平等なんだろう。彼女の仮入部でソワソワしている男子部員たちを横目に、鼻から軽く息を吐いた。