「…………」

あっという間のことだった。ついさっきまで、ふたりだけの空間だったのに。笑いながら絵を描いていたのに。あんなに没頭できていたのに。

……彼女? いや、フリーだって話、前にしてたけど。……あぁ、そっか、そんなのいいのか。彼女じゃなくても美術準備室であんなことしていたんだから。

「……べつに……関係ない、か」

まるで自分に言い聞かせるためにつぶやいた声は、ひとりきりになった美術室にさみしく響いた。

ちょっとだけ、楽しかっただけだ。ちょっとだけ、桐谷先輩が絵を描く空気を共有できたような気がしただけだ。そして、ちょっとだけ、帰りもバスで一緒に話しながら帰るんだろうな、って思っていただけだ。

パレットに出されているたくさんの絵の具。絵筆で、その色たちを混ぜてみる。お世辞にもきれいな色とは言い難い、茶色っぽい濁った色ができた。

日がさっきよりも傾いて、私だけの影が床に長く伸びる中、
「あーあ」
と、色を持たない小さなため息をキャンバスに吐いた。