「いいね。俺、このりんご、好き」
なにが”いいね”なんだ。こんなハチャメチャなりんご。心のなかでそう思いつつも、なぜだか手は止まらない。
楽しい。
小さいころにどろんこ遊びをして感じたような、単純で、素直な感情。それだけが、私の手を動かし、私の頬をゆるめる。
ふたりだけの美術室。ひたすら絵筆を走らせる影がひとつ、その横でキャンバスを指さして笑っている影がひとつ。その解放感は、桐谷遥の絵画を見たときのそれと似ていて、私は久しぶりに時間を忘れた。
「遥ぁー」
開いたドアの音と同時に、女の人の声が前触れもなく飛びこんできた。まるで、私たちの空間と時間がビリッと破かれたかのような錯覚。ハッとした私は手を止めて、隣にいる桐谷先輩と同時に振り返る。
「あ、やっぱりここだ。火曜日だからいると思った。ね、一緒に帰ろ」
美術室の入り口から顔を出すのは、見たことのあるショートボブのきれいな女子生徒。スリッパの色は、桐谷先輩と同じ赤。
「あれ? 他の人は?」
「外出てる」
なにが”いいね”なんだ。こんなハチャメチャなりんご。心のなかでそう思いつつも、なぜだか手は止まらない。
楽しい。
小さいころにどろんこ遊びをして感じたような、単純で、素直な感情。それだけが、私の手を動かし、私の頬をゆるめる。
ふたりだけの美術室。ひたすら絵筆を走らせる影がひとつ、その横でキャンバスを指さして笑っている影がひとつ。その解放感は、桐谷遥の絵画を見たときのそれと似ていて、私は久しぶりに時間を忘れた。
「遥ぁー」
開いたドアの音と同時に、女の人の声が前触れもなく飛びこんできた。まるで、私たちの空間と時間がビリッと破かれたかのような錯覚。ハッとした私は手を止めて、隣にいる桐谷先輩と同時に振り返る。
「あ、やっぱりここだ。火曜日だからいると思った。ね、一緒に帰ろ」
美術室の入り口から顔を出すのは、見たことのあるショートボブのきれいな女子生徒。スリッパの色は、桐谷先輩と同じ赤。
「あれ? 他の人は?」
「外出てる」