「赤……」
「ふあっ!」

いつもは30分で集中もしきらないまま描いていたけれど、今日は時間と環境のおかげで、私もかなり没頭していたみたいだ。背後からかけられた声に、不覚にも素っ頓狂な声をあげてしまった。

「見事に、赤、だね」
「り……りんごですから」

傾けた顔、耳からイヤホンを引っぱって取りながら、私の絵に対して指摘をする桐谷先輩。振り返った私は、自分の絵を見られていたことに気付き、急にはずかしくなった。

「水島さんて、自信がない人?」
「え? なんでですか?」
「デッサンの色は薄いし、塗る色は決められているかのように定番の色の単色使い。ぜんぜん水島さんが表に出てない」
「…………」

カタン、と小さな音を立てて私の横の席に座った桐谷先輩は、無言の私を細い目で見て、顔を傾ける。陽に透けてオレンジ色に染まるやわらかそうな髪が、ほんの少し毛先を揺らした。

「なんですか? それ。色で性格判断とか? 部長は褒めてくれましたよ? 初心者にしては上出来って」

図星だったことを笑ってはぐらかそうとすると、
「うまいヘタの話をしてるんじゃなくて」
と、スパッと言い切られる。

「じゃあ、なん……」
「もっと、遊べば?」