「俺、あっちで絵描くけど、まだ見とく? これ」

桐谷先輩は、ゆっくり立ちあがっておしりをはたき、今見ていたキャンバスを軽く顎で指した。私はコクリとうなずき、またその絵の前で、腰を浮かせた体育座りをした。

「ふー……」

桐谷先輩が美術室の方へ行くのを確認すると、しゃがんだ膝に両肘を置き、頬杖をつく。両手で持ちあげる頬が、若干熱い。

校内でだって、バスでだって、今までも何回かあったじゃないか、こんなふうにふたりになること。なんで変に意識しているんだろう。なんで自分がどう思われているか気にしたり、彼の言葉に一喜一憂したりするんだろう。

「…………」

当たり前だけど、目の前の絵は答えをくれない。

……あーあ。また、休んじゃった。

心のなかでそうぼやくも、一番好きな絵を間近で見ながら、私は満ち足りた気分になっていた。