「雨?」
「うん。公園の大きな木の下にベンチがあって、そのベンチに寝そべってたの。そんで、上見てたら、弱い通り雨が降ってきて」
「はい」
「空は明るかったから、葉と葉の間からキラキラした雨が落ちてきて。それがだんだん多くなってきて、まるで光が次々と落ちてくるみたいだなー、って思って」
「……はい」
「なんかすげー……って思って。そんで、家に帰ってすぐ描いたのがこれ」
「え」

なんの話をしだしたのかと思ったら、思わぬ着地点に、私はマヌケな声を出す。

「なんていうか、そのときの感覚、言葉の枠に収まりきれなかったんだよね。”雨”でも”光”でも伝えられないし、”なんかすげー”にするわけにもいかないし。どんな言葉にしても、なんか陳腐になるっていうか。だから、考えるの面倒になって”無題”」

説明し終わったら、手をついた頬を不細工に歪ませたまま、視線を私に送る桐谷先輩。

「つーか、そんなこんなで、俺の作品、ほぼ全部”無題”」
「ぶっ」
「あ、笑った」
「…………」

思わずゆるんでしまった顔を戻すと、
「誰にも話したことなかったのに、失礼だね、水島さん」
と、桐谷先輩が頬杖を解き、体をうしろにのけ反らせて手をついた。

“誰にも話したことなかった”という言葉が、なんとなく耳に心地よく感じて、私は元に戻した表情筋がまたゆるみそうになるのをかろうじて抑えた。