「あと、ここは細い木の枝をペインティングナイフみたいに使って……」
彼の人さし指が作品の表面を伝う。桐谷先輩は、私に絵の説明を始めた。
絵の中の隆起が、デコボコと彼の指に振動を伝えているのを目の当たりにして、私の胸はひと際躍る。技法について、色について、淡々と話してくれているだけだけど、私にとっては、まるで魔法のかけ方を聞いているように興味深かった。この絵がどんな過程を経て完成されたのか、それを聞けることが予想以上に嬉しくて、私は何度もうなずき、目をきらめかせながらそれを聞いた。
「あの……」
ひととおり説明してくれて話がとぎれたとき、私は小さく挙手をする。
「なに?」
「質問、いいですか?」
「どーぞ」
「なんで”無題”なんですか?」
「あぁ……」
いつの間にか床に胡坐をかき、曲げた片膝に頬杖をついていた桐谷先輩が、眉をあげる。
「めんどくさいから」
「…………」
……あぁ、こういう人だよな、この人。今まであがっていた気持ちが一気に萎えて脱力してしまうと、
「雨がさ」
と続ける桐谷先輩。
彼の人さし指が作品の表面を伝う。桐谷先輩は、私に絵の説明を始めた。
絵の中の隆起が、デコボコと彼の指に振動を伝えているのを目の当たりにして、私の胸はひと際躍る。技法について、色について、淡々と話してくれているだけだけど、私にとっては、まるで魔法のかけ方を聞いているように興味深かった。この絵がどんな過程を経て完成されたのか、それを聞けることが予想以上に嬉しくて、私は何度もうなずき、目をきらめかせながらそれを聞いた。
「あの……」
ひととおり説明してくれて話がとぎれたとき、私は小さく挙手をする。
「なに?」
「質問、いいですか?」
「どーぞ」
「なんで”無題”なんですか?」
「あぁ……」
いつの間にか床に胡坐をかき、曲げた片膝に頬杖をついていた桐谷先輩が、眉をあげる。
「めんどくさいから」
「…………」
……あぁ、こういう人だよな、この人。今まであがっていた気持ちが一気に萎えて脱力してしまうと、
「雨がさ」
と続ける桐谷先輩。