「あ……」

一瞬にしてその絵の世界に取りこまれて言葉を失った私は、さぞかし滑稽な顔をしていたのだろう。気付けば、私を見る桐谷先輩の顔も固まっていた。

「なに、泣いてんの?」
「えっ!?」

嘘だ!

そう思いながらも慌てて目の際に指を当てると、たしかに濡れていた。

「ホントだっ!」
「ハハッ」

吹き出す桐谷先輩。

「絵の前だと、そんなに表情クルクル変わるんだ」
「…………」

ちょっとはずかしくなって、絵に視線を戻す。不覚にも、再感動してしまった。しかも作者の前で。本当ならもっと素直にその感動を伝えたいけれど、この人が作者だと思うと、なんとなくそれがためらわれる。

それにしても……。

「はぁ……」

素敵な絵だな。ずっと見ていたい。できることなら、部屋に飾って毎日鑑賞したいくらいだ。

「ここ、指で描いた」

しゃがんだままの体勢で膝に手を置き、ぼーっと絵に見入っていると、彼の手がぬっと絵の前に現れた。左斜めうしろに同じようにしゃがんだ彼の右手が、私の頬の横を通って伸ばされたからだ。