ほんの少しあがってしまった息を整えながら、放課後の美術室のドアを開ける。
……誰もいない。
今日はたまたま画材の買いだしで、先生に許可を取ってみんな街に出ている。先週末、部長にそう言われて、私は塾までの30分じゃ無理です、と断ったけれど。
いつも座る席にバッグを置くと、ふぅ、と一息。そして、チラリと美術準備室を見た。
今日は……火曜日だ。
「…………」
無意識に喉が鳴った。
たぶん……もう、ある、はず。
べつに、そんなにこそこそと見にいく必要はないのだけれど、私はあたりをキョロキョロと警戒しながら、一枚のドアを隔ててつながっている美術準備室へと足を進める。
まさかまたラブシーンが繰り広げられてはいないよな、と思いながら、とりあえず音を立てないようにドアを開け、中を覗きこんだ。
誰もいないのを確認すると、奥の方へ行き、立て掛けられている大小様々なキャンバスを、手前にある順に一枚ずつめくっていく。
「……あれ?」
ない。
“無題 2年 桐谷遥”が見当たらない。
今日持っていくって、先生に言っていたのに。
私の予想では、大きなキャンバスだから、登校時にそのまま美術室まで運んであるだろうと思っていた。だから、彼が来る前に、ゆっくり鑑賞させてもらおうと思っていたのに……。