最初会ったとき?

「…………」

あぁ、女の人といちゃついていたときのことか。いや、顔に出なかっただけで、けっこう動揺してたんですけど。プラス嫌悪感を抱かせていただいたんですけど。

「そう言う桐谷先輩だって……」
「あ、でもあのときの顔は必死だったね。先週の”バカじゃないの?”って」

私の言葉にかぶせて思い出し笑いをしだした彼に、私の眉間のしわは深くなる。
なんだ? この人。やっぱり小学生だ。

「バカにしてます?」
「まさか」

そう言って微笑んだ桐谷先輩は、頬杖をつきながら目を細め、
「嬉しかったよ」
と、さらりと言った。

「…………」

なんなんだ、本当に。このつかみどころのない男は。
この独特の間と、端正な顔と、本意のわからない言動。ミスマッチが多すぎる。

「残念。これでも顔色変わらないか」

かと思えば、とことん子どもじみていたりして。

「けっこう性格悪いほうですよね。あんなにきれいな絵を描かれるのに」
「勝手な幻想抱く人よりはまともじゃないかな」

彼は、飄々とそう言った。顔に出さずともカチンときた私は、すかさず、そのタイミングで降車ボタンを押す。