「今回の模試は、私たちがキミたちの実力を知るため、キミたちが自分の実力を知るため、そして高校入試を終えたことで気がゆるんでいないかを見るためです。高校生になった今、すでに大学入試へのカウントダウンが……」
バスで数十分の距離にある集団形式の塾。入塾テストで上から2番目のクラスに入った私は、頬杖をつくことさえためらわれる空気の中、返ってきた答案用紙に目を落とす。
「“頑張る”ことよりも“頑張り続ける”ことができる精神力を……」
講師の話が右耳から左耳へと流れていく。たしか、中学のときに3年間通っていた塾でも同じことを言われた。
約30人のクラス、まわりを見ると、講師の話に感化されて目を輝かせている人もいれば、苦い表情で答案用紙とにらめっこしている人、そして私みたいに無表情な人。
勉強が大事なのはよくわかる。でも、またこれから今までとなんら変わりのない3年間が始まるんだと思うと、吐いた息が鉛のように重たく感じられた。
放課後の美術室で聞いた、甘ったるくて楽しそうな女の先輩の声が頭によみがえる。
「…………」
高校生になったからって、彼女たちと私とでは、見える景色もその色味も違うのだろう。私には、なんのかかわりもない世界だ。