「なんですか?」
「お前の去年の高美展の作品、例の件であちらさんが見たいって言っててさ。あれ、家に保管してるだろ? 近いうち持ってきてくれるか?」

……去年の高美展?

「あー、じゃあ来週の火曜日にでも」
「…………」

先生と桐谷先輩の言葉のキャッチボールを目でしっかり追いながら、私の頭のなかは“去年の高美展”というワードで埋め尽くされていた。
去年の高美展の作品っていったら、私が桐谷遥に憧れを持つきっかけになった、例の“無題”の作品だ。

「…………」

そのことに気付いて不覚にも胸が高鳴り目を輝かせてしまったもんだから、無表情の桐谷先輩がこちらへ向けた視線も、なんだか私の気持ちを見透かした目のように思えた。

「それじゃあ、頼んだぞ」と言って、美術室を出ていった先生。
時計を見ると、またバスの時間は過ぎていた。