「……自由……ですね」
「え?」
頭には入ってこなかったけれど、ずっと横で話してくれていたらしい部長が、私の視線をたどり、「あぁ」と言った。
「そうだね。とらわれないことは、ひとつの才能だよね」
彼のまわりだけ、なにか空気が違う。キャンバスの中の世界が、彼自身をも包みこんでいる。夕方の光が外の木々の葉の間を通り、キラキラといろんな形に揺れながら彼にスポットライトを当てていて、まるで彼を含めてひとつの作品みたいだ。
私は息をのみ、しばらくその姿に見入っていた。
失礼だけれど、他の先輩たちがぺちゃくちゃおしゃべりしながら手を動かしているのとはまるで違う。
彼は……やっぱり”桐谷遥”だった。
「お、遥。ちょうどよかった、お前に話があったんだ」
ふいに聞こえた大人の声に、私はパチンと頬をたたかれたかのように現実に引き戻された。見ると、美術室の入り口に40歳代かと思われる先生が立っている。
確か……美術の先生だ。剣道部の顧問も兼任しているらしく、めったに美術部には顔を出さないのだと、初日にまり先輩が教えてくれた。
「え?」
頭には入ってこなかったけれど、ずっと横で話してくれていたらしい部長が、私の視線をたどり、「あぁ」と言った。
「そうだね。とらわれないことは、ひとつの才能だよね」
彼のまわりだけ、なにか空気が違う。キャンバスの中の世界が、彼自身をも包みこんでいる。夕方の光が外の木々の葉の間を通り、キラキラといろんな形に揺れながら彼にスポットライトを当てていて、まるで彼を含めてひとつの作品みたいだ。
私は息をのみ、しばらくその姿に見入っていた。
失礼だけれど、他の先輩たちがぺちゃくちゃおしゃべりしながら手を動かしているのとはまるで違う。
彼は……やっぱり”桐谷遥”だった。
「お、遥。ちょうどよかった、お前に話があったんだ」
ふいに聞こえた大人の声に、私はパチンと頬をたたかれたかのように現実に引き戻された。見ると、美術室の入り口に40歳代かと思われる先生が立っている。
確か……美術の先生だ。剣道部の顧問も兼任しているらしく、めったに美術部には顔を出さないのだと、初日にまり先輩が教えてくれた。