え? ええっ?

親指だけじゃない。人さし指、小指も巧みに使って、色をたたいたり、伸ばしたり、摘まんだり、引っかいたり。

私は、ごくりと生唾を飲み、目を瞬かせた。

なに? あれ。子どもの遊びじゃない。

そう思いながらも、その色の混ざり具合や、斬新な点描、色がぬぐわれた部分と他の部分とのコントラスト、指の動きから生まれるひとつひとつの効果に、目を奪われずにはいられない。

彼は、ふんわりと笑っていた。でも、目は真剣さと楽しさの熱を同時に灯している。

「…………」

私は、圧倒されて言葉を失っていた。

なんて表現したらいいんだろう。彼は、自分の絵との会話を楽しんでいるようだった。あるいは、ゲームを挑んでいるかのようでもあった。

正直言って、普通なら引いてしまう。でも、それ以上に、没頭できることへの憧れ、やりたいことを突き詰めていることへの感心、それが芸術という形で、ひとつのすばらしい作品になっていることへのうらやましさを、自分の中に強く感じた。そうだ、彼はなにより……。