「そういえば水島さん、桐谷のファンなんだよね?」
桐谷先輩の姿を目で追っていると、部長がフッと笑いながら小さな声で言った。一週間前にみんなの前で”憧れの人”宣言をして恥をかいた私は、よみがえった記憶に背中が丸くなり、
「いや、あれは、ちょっと勘違いが入っていて……」
と、苦笑いをしながらごまかす。
「まぁ、でも、桐谷の絵に惹かれるのはわかるよ。僕は見たままの絵しか描けないけど、桐谷の抽象画は、なんていうか、色と技法が独特で……」
部長が横で話している中、私の視線は絵を描く準備をしている桐谷先輩へと自然に戻る。
あ、イヤホンつけた……。音楽聞きながら描くのか。
なんとなく嫌だな、と感じたけれど、次にパレットを取り出し、絵の具をそこに出した彼を、引き続き見つめ続ける。
しかし、それにしてもなんだって彼はいつも気だるげなんだろう。姿勢も悪いし、ぼーっと自分の絵を見たまま動かな……。
あ。今、絵を見てちょっと笑った。
「……!」
そう思った瞬間、彼は右手の親指で、パレットにあった色をいくつかすくった。かと思うと、まるでデタラメみたいにキャンバスにその色を置き、自由自在に伸ばしていく。
桐谷先輩の姿を目で追っていると、部長がフッと笑いながら小さな声で言った。一週間前にみんなの前で”憧れの人”宣言をして恥をかいた私は、よみがえった記憶に背中が丸くなり、
「いや、あれは、ちょっと勘違いが入っていて……」
と、苦笑いをしながらごまかす。
「まぁ、でも、桐谷の絵に惹かれるのはわかるよ。僕は見たままの絵しか描けないけど、桐谷の抽象画は、なんていうか、色と技法が独特で……」
部長が横で話している中、私の視線は絵を描く準備をしている桐谷先輩へと自然に戻る。
あ、イヤホンつけた……。音楽聞きながら描くのか。
なんとなく嫌だな、と感じたけれど、次にパレットを取り出し、絵の具をそこに出した彼を、引き続き見つめ続ける。
しかし、それにしてもなんだって彼はいつも気だるげなんだろう。姿勢も悪いし、ぼーっと自分の絵を見たまま動かな……。
あ。今、絵を見てちょっと笑った。
「……!」
そう思った瞬間、彼は右手の親指で、パレットにあった色をいくつかすくった。かと思うと、まるでデタラメみたいにキャンバスにその色を置き、自由自在に伸ばしていく。