「おー、いいね。初心者でこんだけ描けたらすごいよ」

数日間毎日30分の積み重ねでようやく完成した私の石膏デッサン。それを見ながら、美術部部長の平山先輩が感心した声を出す。

「水島ちゃん、うまいうまい」

その横で小さく手をパチパチしているのは、まり先輩。

「いえ、なんか鼻が歪んでますし……」
「そんなの遠くから見たらわかんないわよ」

まり先輩の言葉に、「そうそう」とにこやかにうなずく平山部長。1年で仮入部中なのは、いまだに私だけだ。彼らは、私を正式入部させるために必死だ。

「とりあえず手始めにデッサンしてもらったけどさ、次、なんでもしていいよ。なにかある? したいこと」

ゆるいなー、この部活、と思いながらも、まわりを見渡しながら考える。したいこと……したいこと……。

いくつか出されている石膏像、机に出されたパレット、絵筆、絵の具、黒板に飾られているデザイン画、水彩画、油絵、棚で乾燥させられているキャンバスの数々、重ねて立て掛けられているイーゼル。
そして最終的に目にとまったものは……。

「……あ」

うしろの方にある、イーゼルに掛けられたままの桐谷遥のキャンバス。あれから一週間会っていない彼の絵は、大小さまざまなビンの輪っかを押し当てられていて、色も少しずつ変化しており、雰囲気がまた変わっていた。やはり、私がいない時間帯に進められているみたいだ。