「塾通ってんだ?」
「はい。いつも帰り着くの7時半だけど、このまま終点で降りちゃったら、うちの家すぐ近くだからはやく着きすぎちゃうし、お母さんに見つかって怒られるかもしれないし。だから、ひとつ前で降りて歩いて帰れば、ちょうどいい時間になっていいかな……って」
「ハ。なんか、小学生みたいなことするんだね」
「…………」

やっぱり言わなければよかった。
こっちは真剣に考えてのことなのに、バカにされているような気がして。なにより、今日塾を休んだ理由の“桐谷遥”本人にそんなことを言われたくなかった。

「じゃ、降りるんで」

ちょうどバス停で止まったので、少しぶっきらぼうにそう言って席を立つ。

「水島さん」

引き止められた言葉に振り返ると、私の座席の背もたれに両腕をかけたままの桐谷先輩を、今度は少し見おろす構図になる。彼は視線をあげてそのまま右手を伸ばし、私の目の下に軽く触れた。