「えー……っと、正しくは、桐谷先輩の作品のファンです」

本当は “桐谷遥”自体のファンにもなっていた。あんな絵を描ける人なんだから、すばらしい感性と人格も持っているんだろうと、勝手に妄想を膨らませて崇めていた。

「なんで知ってんの? 俺の作品」

ギッ、と背を預けているシートが音を立てた。桐谷先輩が、私の背もたれに交差した腕を乗っけて、こちらに身を乗りだしたからだ。私は、男の人との慣れない近さに顔をパッと戻し、
「……中3のとき、美展で見て……」
と、正直に答える。

「あー、美展か」
「はい。すみません、勝手に」
「ハ」

謝るんだ、そこ、と続けて、短く笑う桐谷先輩。無愛想かと思えば、無防備な笑顔をさらすこの男を、盗み見してはまたすぐに視線を戻す。

女の人がほっとかないのがわかる。この独特な雰囲気と些細な表情の変化に振り回される。このタイプはたぶん、タチが悪い。