「うわ、マジだ。すげー。ほら、遥も見てみろよ」
「んー……」

すぐ背後で興味があるのかないのかわからない声。一番小さなその声が、私には一番耳に響いた。今日、なにかと縁がある男。そう、桐谷遥の声だから。

「…………」

初めてこの時間のバスに乗るから知らなかったけれど、帰る方向が同じだったらしく、しかもバス通学みたいだ。朝のバスでも一緒にならないから、登校時間が違うんだろう。

「って、おい。また寝てるし、遥」
「大丈夫だろ、コイツ終点で降りるんだし」

彼の男友達が大きな声で話しているから、会話が筒抜けだ。

終点って……もしかしたら私と家が近いのかもしれない。私の家は、終点のバス停と目と鼻の先だから。まぁ、でも、今日私が降りるのは終点のひとつ手前だけど。



15分ほどすると、バスの乗客もほとんど降り、すっかり車内も静かになった。あと停留所3つで終点だからだ。
夜7時になり、外もだいぶ薄暗くなっている。私は外の暗さと車内の明かりのせいで鏡みたいになっている窓を見て、気にしたくないのにうしろの席の気配を意識していた。

「水島さん」

ビクリと肩がこわばる。寝ていたと言っていたはずの人の声に、全神経が背中に集中したかのようになり、顔半分で振り返った。