一番うしろから2番目の左端の席、バスの車窓にコツリと頭を預け、ぼんやりと外の流れる景色をながめる。
いつも塾へ行くために夕方はやい時間に乗るから、6時台のバスに乗るのは初めてだ。外は薄暗く、車内は控えめな明かりが灯る中、3分の1は学生の乗客たちが、振動に合わせて同じように揺れている。
今日のデッサンは、あれからほとんど進まなかった。ショックから立ち直れなかったのだ。
たしかに桐谷さんを女だと勝手に思いこんでいたのは私だ。プラス、芯があって凛とした美少女を想像していたのも、これまた私に他ならない。それが、チャラくてなにを考えているかわからないような男だったからといって、誰も責められない。
幻滅って思っちゃいけない。意外だった。うん、そう、意外だっただけで、作品自体には罪がないんだから。本当にすばらしいんだから、うん。
そう自己暗示しながら、目頭を押さえ、しばらく考える人ポーズを続けた。
「だから、すごいんだって! 超レアキャラで」
「マジ!? ちょっと見せろよ」
私は目頭を押さえたまま、ため息をつく。私の席のうしろ、段差のある一番奥の席に4人で座っている男子生徒たちが、おそらくゲームの話で盛りあがっている。それは、べつにいいんだけど……。