『欲しがり方を知らない人間になっちまったんだな』
 
町野先生の言葉がよみがえって、私の顔は一層無様な泣き顔になった。

「私っ…………彼氏、いません」
  
泣きすぎて、そう言ったあとでゴホゴホとむせてしまう。
でも、私は歪む口にぎゅっと力を入れて、
「そしてまだ…………先輩のことが……好きです」
と続ける。

桐谷先輩の乏しい表情が、少しだけ動く。わずかに眉をあげ、2度ほど続けて瞬きをした。

「…………そっか」

そして、ゆっくりと背後の椅子に腰をおろした。ふう、と息を吐き、口を覆って机に肘をつく。

「…………」

続く沈黙に、私は今になって急に顔に熱が集まりだしてきた。涙はおさまってきたもののしゃっくりが出て、慌てて口を押さえる。

「挙動不審」
「だっ……て……」
 
目が合うと、先輩はふわりと笑った。たがいに座っているから、同じ目線でなおさらはずかしさが増した。

そして彼は、
「じゃあとりあえず、一緒にいてくれる?」
と言った。