「…………だって、本当に壊したくなかった」
「…………」
「恋人なんて関係、俺にとっては一番もろい。どうせ別れて、離れる」
「…………」
「だから、このままが……一番、いいことだと……」
 
彼は、同じクラスや部活の人に手を出す気はない、と言った。その意味に、今ようやく気付く。
 
大事な人ほど執着しないようにしているんだ。自分のもとから離れていかないように。

「でも………………」
 
つかんだままだった私の腕を、彼は力なく離した。なかば持ちあげられていた私の腕は、ゆっくりと羽のように元の位置へと戻っていく。

「………………欲しい」
 
まるで行動と言葉が逆だ。でも、その瞬間私の目から、ボロッと大きな涙が溢れる。

「…………取られるのは……嫌なんだ」
 
あとからあとからボロボロ落ちる涙目で、ゆっくりと先輩のキャンバスを見た。私が……いる。彼の世界に、彼の心のなかに……。