「絵も……色味がうまく出せなくて、夏休み中もぜんぜん進まなくて、毎日このキャンバスの中の水島さんとスケッチブックの中の水島さんをながめて」
「…………」
「アホみたいに見てるのにやっぱりダメで。記憶をたどって何枚も描いてみたりしたけど」
 
呆然としているような無表情の目の奥が、ゆらりと揺れる。

「今まで思いどおりだった絵が……ぜんぜん……」

桐谷先輩の目尻は赤みを帯びていた。頭での理解がやっと心に追いついたかのように、彼は徐々に私の腕を握る手の強さを弱めていく。

私は、初めて見るこんな桐谷先輩に、嬉しさとせつなさが同居したような、言いようのない気持ちが沸きあがるのを感じた。油断すると、ぐちゃぐちゃに泣きだしてしまいそうになる。

自惚れじゃないと信じたい。でも……。

「……こ……こんな感じのままがいいって言ってた。この関係を壊したくないって」
 
言いながら、唇がゆがむ。私は一度、フラれているんだ。