ゆるやかな一瞬の連続。一度離れたそれは、また隙間をたどるように戻ってきて、同じ角度で優しく押し当てられる。パレットが置かれた机の上に、黄色い包みが見えた。あれは……私がいつもバスで渡していたレモンの飴の袋だ。

「……先輩は…………」
 
ゆっくりと解放された唇を、かすかにふるわせながら開く。

「私のことが…………好きなんですか?」
「…………」
 
私は、桐谷先輩の目を見た。先輩も私をじっと見ていた。美術室が静寂に包まれる。とてつもなく長く……長く感じる沈黙。

「…………飴が……」
「…………」
 
発せられた声は、少しだけかすれて聞こえた。

「べつに特別おいしいってわけじゃないのに、あの飴が食べたくなって。…………探して、買いだめして、夏中ずっと、食べてた」
「…………」
 
ゆっくりと、言葉を選ぶように伝える桐谷先輩。私は座ったままの姿勢で、彼の声と表情と言葉を取りこぼさないように聞く。